大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和43年(あ)267号 決定 1968年6月25日

主文

本件上告を棄却する。

当審における未決勾留日数中八〇日を本刑に算入する。

理由

被告人の上告趣意(二通)のうち警察官作成の被告人の自白調書が取調官の強制に基づくものであり、検察官作成の被告人の自白調書が検察官に対し同様の自白をなすべき旨の警察官の示唆による錯誤に基づくものであって、これらの自白調書を証拠とした原判決は憲法三八条二項に違反するとの主張は、記録によればその主張のような取調官の強制、示唆による錯誤等の事実のあったことを認めることができないから、所論は前提を欠き、その余は、事実誤認の主張であり、弁護人高垣憲臣の上告趣意第一点は、単なる訴訟法違反の主張であり、同第二点は、憲法三七条二項違反を主張するが、その実質は単なる訴訟法違反の主張に帰し、以上すべて刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

なお、記録によれば、原審は、第三回公判において弁護人申請の証人七名を来る昭和四二年五月一三日午前九時小千谷簡易裁判所において尋問する旨決定して告知しながら、同月一二日小千谷市高梨町一五三五番地信濃川岸に臨み、勾留中の被告人が不出頭のまま、出頭した検察官および弁護人の意見を聴いたうえ、職権で新たな証人佐藤佐一、同水内忠次を同日、同川岸において、同岡秀太郎を翌一三日小千谷簡易裁判所においてそれぞれ尋問する旨決定して、その尋問を施行しているが、控訴裁判所が事実の取調として行なう場合であっても、あらかじめ被告人に証人の氏名、立証趣旨すら知る機会を与えることなく、公判期日外において職権をもって証人尋問を決定して施行することは、検察官および弁護人が立ち会い、かつ、異議がないとしても、訴訟法上許されないものと解すべきである。しかし、原判決が認定、判示するところは、右三証人の尋問調書を除いても、原判決が掲げるその余の証拠によってこれを認定することができるから、右の違法は、判決に影響を及ぼさないものと認められる。

よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号、刑法二一条、刑訴法一八一条一項但書により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 松本正雄 裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 飯村義美)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例